「MACDは使っているけど、もう少し早くモメンタムの変化を捉えたい。」
多くのFXトレーダーが感じるこの不満に、30年前に答えを出した人物がいる。アメリカの伝説的トレーダー、Bill Williams(ビル・ウィリアムズ) だ。
Williamsは著書『Trading Chaos(1995年)』で、既存のオシレーターに共通する弱点を指摘した。MACDを含むほとんどのオシレーターは終値をベースに計算される。しかし終値はローソク足が閉じた瞬間の一点にすぎず、その足の中で起きた売買攻防(ヒゲの長さ)を反映しない。
そこでWilliamsが開発したのがAwesome Oscillator(AO、オーサムオシレーター)だ。AOは終値ではなく、ローソク足の中央値((高値+安値)÷2)を使う。たったこの一点の違いが、ヒゲに現れる売買圧力の変化を拾い、MACDより「一歩早く」モメンタムの転換を示唆する。
AOはMT4/MT5、TradingViewのいずれにも標準搭載されており、パラメーター調整が一切不要。表示した瞬間から使える。この記事では、AOの仕組み、MACDとの具体的な違い、そしてAO固有の3大シグナル(ゼロラインクロス・ソーサー・ツインピークス)と、Bill Williamsの統合戦略であるAlligator併用法を解説する。
AOとは?|計算式で理解する「MACDの兄弟」
Awesome Oscillatorの計算式はシンプルだ。
AO = SMA(中央値, 5期間) − SMA(中央値, 34期間)
ここで、中央値 =(高値 + 安値)÷ 2
5期間SMA(短期の移動平均)が34期間SMA(長期の移動平均)を上回ればAOはプラス(ゼロラインより上)、下回ればマイナス(ゼロラインより下)になる。つまり、短期のモメンタムが長期のモメンタムを上回っているかどうかをヒストグラムで視覚化する。
ヒストグラムの各バーには色がつく。前のバーより値が大きければ緑(上昇勢力が優勢)、小さければ赤(下落勢力が優勢)。この緑・赤の切り替わりがモメンタムの微細な変化を教えてくれる。
この構造はMACDと非常によく似ている。実際、AOはMACDの亜種と言ってよい。しかし2つの決定的な違いがあり、それがAO固有の「武器」を生み出している。
AOとMACDの違い|なぜ「中央値」と「SMA」なのか
AOとMACDの違いを明確に理解しておくことが、AOを正しく使うための前提になる。
違い①:価格の基準(中央値 vs 終値)
MACDは終値(Close)をベースに計算する。終値はその時間足が閉じた瞬間の価格であり、足の中で起きた値動きの「結果」だけを反映する。一方AOは中央値((高値+安値)÷2)を使う。中央値はその足の高値と安値の中間点であり、ヒゲの情報を含む。
これが実際にどう効くか。例えば、長い上ヒゲがついた陰線が出た場合を考える。終値は始値より下がっているので、MACDは「下落」の情報を受け取る。しかし中央値は高値と安値の平均なので、高値まで一度は買われたという情報も含む。つまりAOはMACDが見落とす「足の中の攻防」を拾える。
違い②:移動平均の種類(SMA vs EMA)
MACDはEMA(指数平滑移動平均)を使い、直近の価格に大きなウェイトを置く。そのためMACDは価格変動に敏感に反応するが、ノイズも拾いやすい。AOはSMA(単純移動平均)を使い、全期間の価格を等しく扱う。AOのヒストグラムはMACDより「滑らか」で、短期的なノイズに振り回されにくい。
違い③:シグナルラインの有無
MACDにはシグナルライン(9期間EMA)があり、MACDラインとの交差でシグナルを出す。AOにはシグナルラインがない。その代わり、ヒストグラムの形状そのもの(ソーサー・ツインピークス)がシグナルとなる。
違い④:パラメーター調整
MACDには3つのパラメーター(短期EMA/長期EMA/シグナルEMA)があり、トレーダーが自由に調整できる。AOは5期間と34期間が固定で、調整できない(MT4/MT5の場合)。一見デメリットに思えるが、実はこれがメリットになる。全員が同じ設定で見ているため、分析者ごとの解釈のブレが少ない。
→ MACDの詳細な使い方は「RSI・MACDの使い方」を参照。
MT4・TradingViewでの表示方法
MT4/MT5の場合: 上部メニューから「挿入」→「インディケータ」→「Bill Williams」→「Awesome Oscillator」を選択。パラメーター設定画面が出るが、調整項目は色の変更のみ。「OK」を押すとチャート下部にヒストグラムが表示される。MT4/MT5ではAOは「Bill Williams」カテゴリに分類されている点に注意(「オシレーター」カテゴリではない)。
→ MT4を提供しているFX会社については「MT4が使えるFX会社ガイド」で紹介している。
TradingViewの場合: チャート上部の「インジケーター」ボタンをクリックし、「Awesome Oscillator」と検索。TradingView標準のAOインジケーターを選択する。TradingViewではBill Williams分類ではなく一般的なインジケーターとして検索可能。
AOの3大シグナル
AOが出すシグナルは大きく分けて3つ。それぞれ用途が異なるため、どの場面で使うかを明確にしておく。
シグナル①:ゼロラインクロス
最もシンプルなシグナル。 ヒストグラムがゼロラインを下から上に突き抜けたら買いシグナル、上から下に突き抜けたら売りシグナル。
仕組みは明快で、AOがゼロを上抜けた瞬間とは「5期間SMAが34期間SMAを上回った瞬間」、つまり短期モメンタムが長期モメンタムを追い越した瞬間を意味する。移動平均のゴールデンクロス/デッドクロスと本質的に同じだが、AOは中央値ベースなので、移動平均線の交差よりも少し早くシグナルが出る傾向がある。
注意点: レンジ相場ではゼロライン付近で頻繁にクロスが発生し、ダマシが多くなる。ゼロラインクロスはトレンドが発生している局面で使うのが前提。トレンドの有無は移動平均線やAlligator(後述)で確認する。
シグナル②:ソーサー(Saucer)
トレンド継続シグナル。 「トレンドに乗り遅れた」ときのセカンドチャンスを提供する。
ソーサーは、ヒストグラムがゼロラインの同じ側で「皿(Saucer)」の形を作るパターンだ。具体的には3本のバーで構成される。
買いのソーサー(ゼロラインより上): 1本目は任意の色、2本目は赤(前のバーより低い)、3本目は緑(2本目より高い)。つまり「一旦勢いが弱まったが、再び加速した」形。
売りのソーサー(ゼロラインより下): 1本目は任意の色、2本目は緑(前のバーより高い=マイナスが縮小)、3本目は赤(2本目より低い=再びマイナスが拡大)。
ソーサーはAOの3つのシグナルの中で最も出現頻度が高い。トレンド中に押し目/戻りが発生するたびにソーサーが出やすいため、トレンドフォロー戦略との相性がよい。
シグナル③:ツインピークス(Twin Peaks)
反転シグナル。 ゼロラインの同じ側に2つのピーク(山または谷)が形成され、2番目のピークがゼロラインに近い(勢いが弱まっている)パターン。
買いのツインピークス(ゼロラインより下): 2つの谷(マイナスのピーク)が形成され、2番目の谷が1番目より浅い(ゼロに近い)。さらに、2番目の谷の後に緑バーが出現した時点でシグナル確定。
売りのツインピークス(ゼロラインより上): 2つの山(プラスのピーク)が形成され、2番目の山が1番目より低い。2番目の山の後に赤バーが出現した時点でシグナル確定。
ツインピークスは本質的にダイバージェンス(価格とモメンタムの乖離)と同じ概念だ。価格は安値を更新しているのにAOの谷は浅くなっている(買いのツインピークス)、あるいは価格は高値を更新しているのにAOの山は低くなっている(売りのツインピークス)。モメンタムが価格についていけなくなっている証拠であり、反転の前兆を示す。
実戦手法|Alligator + AOの「Profitunity式」併用法
AOは単体でも機能するが、Bill Williams自身が最も推奨したのは、自身が開発したAlligator(アリゲーター)インジケーターとの組み合わせだ。Williamsはこの統合システムを「Profitunity」と名付け、著書で詳細に解説した。
Alligatorは3本の平滑移動平均線(Jaw=顎、Teeth=歯、Lips=唇)で構成され、「市場がトレンド状態かレンジ状態か」を判別するインジケーターだ。3本の線が絡み合っている状態を「ワニが眠っている=レンジ」、3本の線が広がっている状態を「ワニが口を開けている=トレンド」と解釈する。
Profitunity式の基本ルール:
ステップ1(環境認識):Alligatorの3本線を確認する。 線が広がって同じ方向に進んでいればトレンド発生中。線が絡み合っていればレンジ(トレードを見送る)。
ステップ2(方向確認):AOのゼロライン位置を確認する。 Alligatorが上向きで、かつAOがゼロラインより上ならば、買い方向に確信が持てる。両方が同じ方向を指していることが前提。
ステップ3(エントリー):AOのソーサーシグナルで仕掛ける。 Alligatorがトレンドを示し、AOが方向を確認した上で、ソーサー(トレンド継続)のシグナルが出たらエントリー。
ステップ4(利確):AOの色の変化を監視する。 買いポジション保有中に赤バーが連続し始めたら、モメンタム低下のサイン。Alligatorの赤いライン(Teeth)をローソク足が割り込んだら利確する。
ステップ5(損切り):Alligatorの顎(Jaw)ラインの外側に設定する。 買いの場合はJawの少し下。JawはAlligatorの中で最も遅い移動平均であり、ここを割り込んだらトレンド自体が崩壊したと判断する。
→ 損切りルールの詳細は「損切りルールの作り方」を参照。
この手法のポイントは、Alligatorが「いつトレードするか」を決め、AOが「どの方向に」「どのタイミングで」を決めるという役割分担だ。AOのダマシが多いレンジ相場をAlligatorがフィルタリングし、トレンド中のエントリーに集中できる。
AOを使う上での3つの注意点
注意点①:レンジ相場でのダマシに注意。 AOはモメンタムインジケーターであり、トレンド相場で威力を発揮する。レンジ相場ではゼロライン付近で頻繁にクロスが発生し、ソーサーも方向感のないシグナルを出す。必ずトレンドの有無を確認してからAOのシグナルを使う。確認方法はAlligator、移動平均線、あるいはダウ理論(高値・安値の切り上げ/切り下げ)のいずれでもよい。
注意点②:AOだけで判断しない。 AOのシグナルは「モメンタムの変化」を教えてくれるが、エントリーの精度を高めるにはサポート・レジスタンス、プライスアクション、または他のインジケーターとの組み合わせが不可欠。特にソーサーシグナルは出現頻度が高いため、フィルターなしで全てのシグナルに従うと勝率が低下する。
注意点③:低い時間足での信頼性は下がる。 AOの推奨時間足はM30以上。M15やM5ではノイズが多く、シグナルの信頼性が著しく低下する。Bill Williams自身が日足を推奨しており、バックテストでも日足が最も安定した結果を出すことが多い。
→ テクニカル分析全般の基礎は「FXチャート分析入門」で体系的に学べる。
→ 移動平均線でトレンドを確認する方法は「移動平均線の見方と使い方」を参照。
よくある質問(FAQ)
Q. Awesome OscillatorとMACDの違いは?
A. 最大の違いは2つ。AOはローソク足の中央値((高値+安値)÷2)を使い、MACDは終値を使う。中央値はヒゲの情報を含むため売買圧力の変化を早く捉えやすい。またAOはSMA、MACDはEMAを使う。AOにはシグナルラインがなく、パラメーター調整も不要。
Q. AOのパラメーターは変更できますか?
A. MT4/MT5では変更不可(5期間と34期間が固定)。TradingViewでは一部カスタムスクリプトで変更可能だが、Bill Williams自身がこの設定をベストとしているためデフォルト推奨。全員が同じ設定で見ることで分析のブレが少なくなるメリットがある。
Q. AOの3大シグナルとは?
A. ゼロラインクロス(ヒストグラムがゼロを突破)、ソーサー(3本のバーで皿型を形成→トレンド継続)、ツインピークス(同じ側の2つのピークで2番目がゼロに近い→反転)。ゼロラインクロスが最もシンプル、ソーサーが最も出現頻度が高い。
Q. AOはリペイント(再描画)しますか?
A. いいえ。AOはリペイントしない。確定したバーの値は後から変わらないため、過去のシグナル検証も信頼性が高い。
Q. AOはどのプラットフォームで使えますか?
A. MT4/MT5、TradingViewに標準搭載。MT4/MT5では「挿入→インディケータ→Bill Williams→Awesome Oscillator」、TradingViewでは検索から表示可能。ダウンロード不要。
まとめ|AOの「皿」を見つける練習から始めよう
ステップ1:いつものチャートにAOを表示する。 いつも見ている通貨ペアの日足チャートにAOを追加し、ゼロラインの上下でヒストグラムがどう動くか観察しよう。緑と赤の切り替わりが、モメンタムの強弱を教えてくれる。まずは「見慣れる」ことが第一歩。
ステップ2:ソーサーシグナルを20個見つける。 過去チャートを遡り、ゼロラインの上側で「赤→赤(低い)→緑」の3本バーパターンを探す。このパターンがソーサーだ。ソーサーの後に価格がどう動いたかを20事例確認すれば、このシグナルの特徴が体感できる。
ステップ3:デモトレードでAlligatorと組み合わせて実践する。 AlligatorとAOを両方表示し、「Alligatorが開いていてAOが同じ方向→ソーサーでエントリー」のルールでデモトレードを20回以上繰り返す。リスクゼロの環境でルールを体に染み込ませよう。→ FXデモトレード(無料・口座開設不要)
AOは「オーサム(素晴らしい)」という大胆な名前を持つが、その中身は堅実だ。MACDとほぼ同じ構造でありながら、中央値を使うことでヒゲの情報を拾い、パラメーター固定で解釈のブレを排除する。派手さはないが、モメンタムの「体温計」としてチャート分析の土台に加える価値は十分にある。