多くのテクニカル指標は「過去の値動きの平均」を基準にしている。移動平均線がそうだし、RSIもMACDもそうだ。しかし、平均だけでは分からないことがある。「平均からどれくらい離れたら”異常”と言えるのか」だ。
ドル円が150円を中心に動いているとして、151円は「普通のブレ」なのか「異常な動き」なのか。これを判断するには「普段どれくらいの範囲で動いているか」を知る必要がある。この「普段のバラつき具合」を数値化するのが標準偏差(σ:シグマ)であり、これをチャートの上に可視化したのがボリンジャーバンドだ。
ボリンジャーバンドが表示するのは、統計学でいう「正常範囲」のリアルタイム地図。価格がこの範囲の中にいれば「普通」、バンドの外に飛び出したら「統計的に珍しい動き」。この「珍しさ」の情報が、エントリーと利確の判断材料になる。
標準偏差(σ)の仕組み:「バラつき」の物差し
ボリンジャーバンドを正しく使うには、その心臓部である標準偏差を理解する必要がある。ただし、数式を暗記する必要はない。ここでは概念を掴むことに集中しよう。
標準偏差の直感的な理解: 20本のローソク足の終値を見て、平均値を出す。各終値が平均からどれだけ離れているかを全部足し合わせて、「1本あたりの平均的なズレ幅」を出す。これが標準偏差(σ)だ。
価格が穏やかに動いている期間は、各終値が平均から大きく離れないのでσは小さい。価格が荒れている期間は、各終値が平均から大きくバラけるのでσは大きくなる。σはボラティリティ(値動きの激しさ)の正確な数値表現と言い換えてよい。
σと確率の関係(正規分布の前提で):
- ±1σの範囲:データの約68%が収まる
- ±2σの範囲:データの約95%が収まる
- ±3σの範囲:データの約99.7%が収まる
ただし、為替レートの分布は厳密には正規分布に従わない(ファットテールが存在する)。開発者のJohn Bollinger自身が「実際のデータでは±2σに約90%が収まる。95%ではない」と明言している。この認識は重要で、「±2σの外に出た=絶対に戻る」という思い込みは危険。外に出た価格がそのまま走り続ける(バンドウォーク)ことは珍しくない。
ボリンジャーバンドの構造:3本のライン
ボリンジャーバンドは3本のラインで構成される。
ミドルバンド: 20期間の単純移動平均線(SMA20)。これがバンドの中心であり、「現在の平均的な価格水準」を示す。ミドルバンドの傾きそのものがトレンドの方向を教えてくれる。
アッパーバンド(上バンド): SMA20 +(標準偏差 × 2)。「統計的に高すぎる」水準の動的なライン。
ロワーバンド(下バンド): SMA20 −(標準偏差 × 2)。「統計的に安すぎる」水準の動的なライン。
ボリンジャーバンドが移動平均線と決定的に違うのは、バンド幅が自動的に変化する点。ボラティリティが高い局面ではバンドが膨らみ、低い局面ではバンドが収縮する。この「呼吸」のような動きが、相場のリズムを可視化してくれる。
デフォルトパラメーター: 期間20、標準偏差×2。John Bollingerは、期間を変更する場合は偏差の倍率も調整することを推奨している。短期(10期間)なら×1.5、長期(50期間)なら×2.5が目安。FXの日足やH4ではデフォルトのまま十分に機能する。
MT4では「挿入」→「インディケータ」→「トレンド」→「Bollinger Bands」で表示。期間20、偏差2、適用価格Close。MT4対応のFX会社は「MT4が使えるFX会社まとめ」を参照。
ボリンジャーバンドの5つの使い方
使い方①:スクイーズ→ブレイクアウト(最重要)
スクイーズとは: ボリンジャーバンドの上下のバンドが収縮し、幅が極端に狭くなる状態。低ボラティリティ期であることを示し、スクイーズの後には大きな値動き(ブレイクアウト)が発生しやすい。これはボリンジャーバンドの最も強力な使い方であり、Bollinger本人も著書で最重要パターンとして解説している。
なぜスクイーズの後にブレイクが起きるのか: ボラティリティは「循環」する。高ボラ→低ボラ→高ボラ→低ボラを繰り返す。バンドが極端に収縮した状態は、相場が「エネルギーを溜めている」状態であり、いずれ放出される。バネを押し縮めれば縮めるほど、跳ね返りが大きくなるのと同じ原理だ。
スクイーズの実戦的な使い方:
- バンド幅が直近6〜12ヶ月の最狭水準に接近したら準備開始。 目視でバンドが明らかに狭い局面を探す。BandWidth指標(後述)を使えば数値で確認できる。
- ブレイクの方向は、スクイーズ自体では分からない。 ここが最大の注意点。スクイーズは「大きく動く」ことだけを教えてくれるが、「どちらに動くか」は教えてくれない。方向を判断するには補助指標が必要。特に出来高系の指標(A/Dライン、OBV)は、スクイーズ中に買い集めが起きているのか売り崩しが起きているのかを判別するのに効果的。
- ブレイク確認はローソク足の実体でバンドの外に抜けたこと。 ヒゲだけの突き抜けはカウントしない。ブレイク方向に強いローソク足(大陽線・大陰線)が出れば信頼性が高い。
- 「ヘッドフェイク」に注意。 Bollinger自身が警告している概念。スクイーズ後にまず一方向にブレイクしたように見せかけて、すぐに反転して逆方向に走り出すパターン。例えば、下バンドを一瞬割った後に急反転して上バンドを突き破る。対策は、ブレイク直後のローソク足1〜2本を様子見し、方向が確定してからエントリーすること。
使い方②:バンドウォーク(トレンド追従)
バンドウォークとは: 強いトレンドが発生している時、価格がアッパーバンド(またはロワーバンド)に沿って移動し続ける現象。価格がバンドの外に繰り返しタッチしながら、ミドルバンドまで戻らずに推進する。
バンドウォークの重要性: これが理解できていないと、ボリンジャーバンドで大損する。「上バンドにタッチした=買われすぎ=売り」と単純に逆張りすると、バンドウォーク中は連敗する。Bollinger自身のルール第7条が「トレンド相場では価格は上バンドを歩き上がり、下バンドを歩き下がる」であり、第6条は「バンドへのタッチはシグナルではなくタグに過ぎない」と明確に述べている。
バンドウォークの識別方法:
- ミドルバンド(SMA20)が明確に傾いている
- 価格がミドルバンドの片側(上or下)に留まっている
- バンドが拡大方向に動いている(収縮していない)
- アッパーバンドまたはロワーバンドに連続してタッチまたは超え
バンドウォーク中のトレード: バンドウォークの方向に順張りする。上昇バンドウォーク中は、価格がミドルバンドまで押し目をつけた場合に買い。下降バンドウォーク中は、ミドルバンドまでの戻りで売り。バンドウォーク中に逆張りしてはいけない。
バンドウォークの終了サイン: 価格がミドルバンドを明確に反対側に抜ける。または、バンドが収縮に転じる(ブレイクアウトの勢いが衰えた)。
使い方③:バンド反転(レンジ相場の逆張り)
バンドへのタッチで逆張りする手法。ただしレンジ相場でのみ有効であり、トレンド相場では使わない。
レンジ相場の確認条件: ミドルバンドがほぼ水平。バンド幅が比較的安定している(収縮も拡大もしていない)。価格が上バンドと下バンドの間を往復している。
エントリールール:
- 価格がロワーバンドにタッチ+RSIが30割れ+反転ローソク足(ピンバー、包み線)→ 買い
- 価格がアッパーバンドにタッチ+RSIが70超え+反転ローソク足 → 売り
- 利確目標はミドルバンド(SMA20)
- 損切りはバンドの外側
重要:バンドタッチ単独では売買しない。 必ずRSI等のモメンタム指標とプライスアクションによる確認を加える。Bollingerのルール第6条「タグはシグナルではない」を常に念頭に置く。
RSIの逆張り戦略は「RSI・MACDの使い方」で詳しく解説している。
使い方④:ダブルボトム(Wボトム)・ダブルトップ(Mトップ)
Bollingerが著書で特に強調しているパターン認識手法。
Wボトム(買いパターン):
- 価格が下落しロワーバンドを下回る(1回目の底)
- 価格がミドルバンド方向に反発
- 再び下落するが、今度はロワーバンドを下回らない(2回目の底がバンドの内側)
- 反発してミドルバンドを上抜ける → 買いシグナル
2回目の底がバンドの外に出ないことがポイント。「前回はバンドの外まで売り込まれたのに、今回は同じ水準まで下げてもバンドの外に出なかった」=売り圧力が弱まっている証拠。
Mトップ(売りパターン): Wボトムの逆。1回目の高値はアッパーバンドを超えるが、2回目の高値はバンドの内側に留まる。ミドルバンドを下抜けたら売り。
このパターンは、%b(後述)を使うとさらに明確に確認できる。
使い方⑤:ボリンジャーバンド+RSI併用戦略
ボリンジャーバンド(遅行・ボラティリティ指標)とRSI(先行・モメンタム指標)の組み合わせは、補完関係にあるため信頼性が高い。
買いシグナル: RSIが売られすぎ圏(30割れ)に入り、同時に価格がロワーバンドの外側または付近にある。RSIが30を上回り返す+価格がミドルバンドを上抜けたタイミングでエントリー。
売りシグナル: RSIが買われすぎ圏(70超え)に入り、同時に価格がアッパーバンドの外側または付近にある。RSIが70を下回り返す+価格がミドルバンドを下抜けたタイミングでエントリー。
ダイバージェンスとの組み合わせ: ボリンジャーバンドのMトップ形成中に、RSIに弱気ダイバージェンス(価格は高値を更新、RSIは高値を更新しない)が出た場合、反転の確度は格段に上がる。
%bとBandWidth:ボリンジャーバンドの「裏メニュー」
多くのトレーダーはボリンジャーバンドの3本線だけを見ているが、開発者Bollingerが2010年に発表した2つの派生指標を知ると、分析の精度が一段上がる。
%b(パーセントb)
%bは「価格がバンドのどの位置にあるか」を0〜1の数値で示す。
計算式: %b =(現在の終値 − ロワーバンド)÷(アッパーバンド − ロワーバンド)
読み方:
- %b = 1.0:価格がアッパーバンド上にある
- %b = 0.5:価格がミドルバンド上にある
- %b = 0.0:価格がロワーバンド上にある
- %b > 1.0:価格がアッパーバンドの外に出ている
- %b < 0.0:価格がロワーバンドの外に出ている
%bの実戦的な価値: チャートを目視で見ていると、「バンドのどの辺りにいるか」は感覚的にしか分からない。%bはこれを数値化するため、「%bが0.8を超えたらアラートを出す」「%bが0.2を割ったら買いを検討する」といったルールベースのトレードが可能になる。
%bとRSIの合わせ技: %bが0を下回った(ロワーバンドの外)+RSIが30割れ = 強い買い候補。%bが1を超えた(アッパーバンドの外)+RSIが70超え = 強い売り候補。両方の指標が同時に極端な値を示すことで、シグナルの質が大幅に向上する。
Wボトムの%b確認: 1回目の底で%bが0以下、2回目の底で%bが0以上(=バンドの内側に留まった)。これを%bの数値で客観的に確認できる。
BandWidth(バンド幅)
BandWidthはバンドの幅をミドルバンドで割ったパーセンテージ。
計算式: BandWidth =(アッパーバンド − ロワーバンド)÷ ミドルバンド × 100
読み方: BandWidthの値が大きい=バンドが広い=ボラティリティが高い。BandWidthの値が小さい=バンドが狭い=ボラティリティが低い(スクイーズ状態)。
BandWidthの実戦的な価値: スクイーズの識別を目視ではなく数値で行える。その通貨ペアの直近6〜12ヶ月のBandWidthの最低値付近に接近した時、スクイーズ状態にあると判断する。「BandWidthが○○%以下になったらブレイクアウトに備える」という定量的なルールが作れる。
BandWidthはTradingViewで「Bollinger BandWidth」として標準搭載されている。MT4では標準では入っていないが、カスタムインジケーターとして無料で入手可能。
開発者ボリンジャーのルールから学ぶ5つの鉄則
John Bollingerは自身のサイト(bollingerbands.com)で「22のルール」を公開している。その中からFXトレーダーにとって特に重要な5つを抜粋する。
鉄則①:「バンドへのタッチはシグナルではなくタグである」(ルール6)。 アッパーバンドへのタッチは「それ自体は売りシグナルではない」、ロワーバンドへのタッチは「それ自体は買いシグナルではない」。バンドタッチを単独のエントリー根拠にしてはならない。
鉄則②:「トレンド中、価格はバンドを歩く」(ルール7)。 トレンド相場ではアッパーバンドに沿って上昇し続ける、またはロワーバンドに沿って下降し続ける。バンドタッチ=逆張りの誘惑に負けないこと。
鉄則③:「バンド外のクローズは、最初は継続シグナルである」(ルール8)。 多くの人が「バンドの外に出た=戻る」と思い込むが、Bollingerは「バンド外のクローズは、最初は逆張りシグナルではなくトレンド継続のシグナル」としている。ブレイクアウトシステムの基盤はこの認識にある。
鉄則④:「ボリンジャーバンドは単体で使うな」(ルール4)。 「他の補完的なインジケーターと組み合わせよ」とBollinger自身が明言。特にモメンタム系(RSI)とトレンド系(移動平均線)の組み合わせを推奨している。
鉄則⑤:「統計的な前提を置くな」(ルール14)。 バンドの構築に標準偏差を使っているが、「価格の分布が正規分布に従う」と仮定してはならない。±2σ=95%という教科書的な確率をそのまま当てはめるのは誤り。実際のデータでは約90%がバンド内に収まる。
実践フロー:ボリンジャーバンド7ステップ
- ミドルバンドの傾きで相場環境を判断。 上向き=上昇トレンド、下向き=下降トレンド、水平=レンジ。
- バンド幅の状態を確認。 収縮中(スクイーズ)=ブレイクアウトに備える。拡大中=トレンド発生中。安定=レンジ。
- スクイーズ中の場合: ブレイクの方向を補助指標(RSI、A/Dライン、モメンタム)で予測。ブレイクが確認されたらブレイク方向にエントリー。ヘッドフェイク(1〜2本の偽ブレイク後の反転)に注意。
- バンドウォーク中の場合: トレンド方向に順張り。ミドルバンドへの押し目(戻り)でエントリー。バンドタッチで逆張りしない。
- レンジ相場の場合: バンド反転+RSI+プライスアクションで逆張り。利確はミドルバンド。Wボトム・Mトップのパターンを待つ。
- %bで「バンド内の位置」を数値確認。 %bが極端な値(0以下または1以上)のとき、RSIのシグナルと合致すればエントリーの根拠が強まる。
- 損切りはバンドの反対側または直近スイングポイントの外側。 買いの場合はロワーバンドまたは直近安値の下。売りの場合はアッパーバンドまたは直近高値の上。損切りの詳細は「損切りルールの作り方」を参照。
デモ環境で練習しよう。「FXデモトレード(無料・口座開設不要)」でボリンジャーバンドのスクイーズとバンドウォークを実際に観察することから始められる。
ボリンジャーバンドの注意点
注意点①:「±2σの外に出た=必ず戻る」は誤解。 最も多い失敗パターン。±2σは「統計的に珍しい」のであって「ありえない」のではない。トレンド相場ではバンドの外にクローズが連続することは普通に起こる。鉄則③を忘れないこと。
注意点②:スクイーズの「方向」は別の指標で判断する。 スクイーズ自体はブレイクの方向を教えてくれない。スクイーズだけを根拠にエントリーすると、ヘッドフェイクに捕まる確率が上がる。出来高系指標やモメンタム指標で方向の手がかりを得てからエントリーする。
注意点③:低い時間足ほどバンドのノイズが増える。 M5やM15ではバンドの「呼吸」が荒くなり、スクイーズからのブレイクのダマシが増える。ボリンジャーバンドの戦略はH1以上の時間足で最も安定する。スキャルピングで使う場合は、上位足でトレンド方向を確認した上でバンドウォーク方向のエントリーのみに限定するとよい。
注意点④:パラメーター変更時は偏差も調整する。 期間を10に短縮したのに偏差を2のまま使うと、バンドが狭すぎてほぼ全てのローソク足がバンドの外に出てしまう。Bollingerの推奨:10期間→×1.5σ、50期間→×2.5σ。
注意点⑤:チャネルラインとの併用でトレンドの「通路」を把握する。 バンドウォーク中の価格がチャネルライン内に収まっているかを確認することで、トレンドの健全性をより正確に判断できる。チャネルラインを上抜けた状態でバンドウォークが続いていれば強いトレンド、チャネルの中央線を割り始めたらトレンド減速の兆候。→ チャネルラインの引き方|MT4の5ツール完全ガイド
よくある質問
Q. ボリンジャーバンドとは何ですか?
1980年代にJohn Bollingerが開発したテクニカル指標で、20期間の単純移動平均線(ミドルバンド)の上下に標準偏差(σ)の倍数を加減してバンドを描画する。デフォルトは±2σで、価格の約90〜95%がバンド内に収まるため、バンドの外に出た価格は「統計的に異常な動き」として注目される。
Q. ボリンジャーバンドのスクイーズとは?
スクイーズとはボリンジャーバンドの上下のバンドが収縮し、幅が狭くなる状態。低ボラティリティ期を示し、この後に大きな値動き(ブレイクアウト)が起こりやすい。ただしスクイーズ自体はブレイクの方向を示さないため、RSIやA/Dラインなどの補助指標で方向を判断する必要がある。
Q. ±2σに価格がタッチしたら逆張りすべき?
いいえ。開発者のJohn Bollinger自身が「バンドへのタッチはシグナルではなくタグに過ぎない」と明言している。トレンド相場では価格がバンドに沿って動く「バンドウォーク」が発生し、タッチ=逆張りでは連敗する。バンドタッチをシグナルとして使うにはRSIやローソク足パターンによる確認が必要。
Q. %bとBandWidthとは?
%bは価格がバンドのどの位置にあるかを0〜1で数値化した指標(上バンド=1、下バンド=0)。BandWidthはバンド幅をミドルバンドで割ったパーセンテージで、ボラティリティの数値化に使う。いずれもJohn Bollingerが2010年に発表したボリンジャーバンドの派生指標。
Q. パラメーターは変えるべき?
デフォルトの20期間・±2σが推奨。John Bollingerは期間を変える場合は偏差の倍率も調整すべきとしており、短期(10期間)なら1.5σ、長期(50期間)なら2.5σが目安。FXでは日足・H4ともにデフォルト設定で十分に機能する。