フィボナッチ・タイム・ターゲットの使い方|日柄分析でFXの「いつ動くか」を予測する方法

テクニカル分析の「もう半分」を使えているか

ほとんどのテクニカル指標は「価格」を分析する。RSIは価格の上昇幅と下落幅の比率、ボリンジャーバンドは価格の標準偏差、移動平均線は価格の平均。フィボナッチ・リトレースメントも「どこまで押すか(価格水準)」を予測するツールだ。

しかし、チャートには2つの軸がある。縦軸(価格)と横軸(時間)。価格だけを分析して時間を無視するのは、地図を見るのに緯度だけ読んで経度を無視するようなもの。「どこまで動くか」は分かっても、「いつ動くか」が分からなければ、エントリーのタイミングは不完全なままだ。

フィボナッチ・タイム・ターゲット(フィボナッチ・タイムゾーンとも呼ぶ)は、この「いつ」の軸にフィボナッチ数列を適用するツール。通常のフィボナッチが価格軸に水平線を引くのに対し、タイム・ターゲットは時間軸に垂直線を引く。「いつ、相場の転換が起きやすいか」を事前に予測し、エントリーと利確の時間的な判断材料を加えるのが目的だ。

日本の株式投資では古くから「日柄分析」(日柄=経過日数のこと)という概念がある。「そろそろ日柄が煮詰まった」「日柄調整が終わった」という表現を聞いたことがあるかもしれない。フィボナッチ・タイム・ターゲットは、この日柄分析をフィボナッチ数列で体系化したものと考えればよい。

フィボナッチ数列の復習:なぜ「時間」にも効くのか

フィボナッチ数列:0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377…

各数字が前の2つの和になっている(1+2=3、2+3=5、5+8=13)。隣り合う数字の比率が黄金比(1.618…)に収束していく。この数列と黄金比が自然界の至るところに現れることはよく知られている——ひまわりの種の配列、台風の渦、銀河の渦巻き。

相場に適用する理論的根拠は「市場は人間の集団心理で動く→集団心理はパターンを繰り返す→その周期がフィボナッチ数に近似する」というもの。科学的に完全に実証されているわけではないが、多くのトレーダーがフィボナッチを使うことで、自己実現的に(self-fulfilling prophecy)フィボナッチの節目が機能する側面もある。

フィボナッチ・リトレースメントは黄金比の「比率」(23.6%、38.2%、50%、61.8%、78.6%)を使う。一方、フィボナッチ・タイム・ターゲットは黄金比の比率ではなくフィボナッチ「数列そのもの」(1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144…)を時間間隔として使う。この点が重要な違いであり、混同しやすいので注意したい。

フィボナッチ・タイム・ターゲットの仕組み

基本構造:起点から垂直線を引く

  1. チャート上で重要なスイングハイまたはスイングロー(明確な高値・安値)を起点として選ぶ。
  2. 起点から右方向に、フィボナッチ数列の間隔で垂直線を描画する。
  3. 1本目=起点から1期間後、2本目=2期間後、3本目=3期間後、4本目=5期間後、5本目=8期間後、6本目=13期間後、7本目=21期間後…

ここでの「期間」はチャートの時間足に依存する。日足なら1期間=1日、H4なら1期間=4時間、週足なら1期間=1週間。

「基本区間」方式(2点指定): 多くのチャートツール(TradingView、MT5)では、起点と終点の2点を指定する。起点(スイングロー)から終点(次のスイングハイ)までの区間を「1単位」とし、その1単位の長さをベースにフィボナッチ数列の倍数で垂直線を投影する。例えば起点から終点まで10日間なら、次の垂直線は起点から10×2=20日後、10×3=30日後、10×5=50日後…に引かれる。

最初の5〜6本は無視する

フィボナッチ数列の特性上、序盤の数字(1, 1, 2, 3, 5, 8)は間隔が極端に狭い。日足で言えば最初の8日間に6本もの垂直線が密集してしまい、どの線がシグナルなのか判別できない。実用的には8本目(21日)以降の垂直線から注目する。StockCharts.comのChartSchool(テクニカル分析の権威的な教育サイト)でも「最初の5本程度は無視する必要がある」と明記している。

タイムゾーンが教えてくれること・教えてくれないこと

教えてくれること: 「この時期に、価格が何かしらの重要な動きをする可能性が高い」というタイミングの予告。

教えてくれないこと: 「上がるか下がるか」の方向。これが最大の注意点。タイムゾーンの垂直線は「いつ」しか教えてくれない。「何が起きるか」は別のツールで判断する必要がある。

フィボナッチ・タイム・ターゲットの3つの使い方

使い方①:単独描画で転換タイミングを予測する

最もシンプルな使い方。明確なスイングハイまたはスイングローを起点に選び、タイムゾーンの垂直線を描画する。

手順:

  1. 直近の明確なスイングロー(上昇トレンドの場合)またはスイングハイ(下降トレンドの場合)を特定する。起点の選定は主観的だが、「誰が見ても分かるレベルの明確な高値・安値」を選ぶことが精度を上げる鍵。
  2. 次のスイングポイント(スイングハイまたはスイングロー)を終点にして、2点間を「基本区間」に設定。
  3. 21日以降の垂直線に到達するタイミングで、価格の動きに変化がないか注目する。転換、加速、あるいは一時的な停滞が起きやすい。
  4. 垂直線の付近で、RSIのダイバージェンスやローソク足の反転パターン(ピンバー、包み線)が確認できれば、転換の確度が高まる。

実例のイメージ: EUR/USDの日足で、2025年1月の安値を起点、2月の高値を終点に設定。21日目の垂直線付近でRSIに弱気ダイバージェンスが出現し、長い上ヒゲのピンバーが形成。次の日に下落開始。——このように「時間の予告+価格のシグナル」が合致した場面がエントリーの根拠になる。

使い方②:フィボナッチ・リトレースメントとの「十字交差」

フィボナッチ・タイム・ターゲットの真価は、価格ベースのフィボナッチツールと組み合わせた時に発揮される。

「いつ」+「どこで」の合致: リトレースメントの水平線(価格軸)と、タイムゾーンの垂直線(時間軸)が交差するポイントは、「この価格水準で、この時期に、何かが起きやすい」という2次元的な予測になる。

手順:

  1. 同じスイングハイ/スイングローの2点を使い、フィボナッチ・リトレースメント(水平線)とフィボナッチ・タイムゾーン(垂直線)を同時に描画する。
  2. リトレースメントの重要水準(38.2%、50%、61.8%)と、タイムゾーンの垂直線が同じチャート上で交差するポイントを探す。
  3. 価格がリトレースメントの水準に接近し、かつタイムゾーンの垂直線の時期に到達した場合、そこが高確率の転換候補になる。

注意: チャート上に水平線と垂直線が同時に表示されるため、視認性が悪くなりがち。TradingViewではリトレースメントの色とタイムゾーンの色を明確に分ける(例:リトレースメント=青、タイムゾーン=赤)と見やすい。また、マルチタイムフレーム分析を使い、上位足でリトレースメント、下位足でタイムゾーンと役割を分けるアプローチも効果的。

使い方③:タイムゾーン・クラスター分析

異なる起点から描画した複数のタイムゾーンが同じ時期に集中する「クラスター」は、転換の確率がさらに高い。

手順:

  1. 直近の複数のスイングポイント(例:3ヶ月前のスイングロー、1ヶ月前のスイングハイ、先週のスイングロー)それぞれを起点に、タイムゾーンを重ねて描画する。
  2. 複数の垂直線が同じ時期(±1〜2日の範囲)に集中する箇所を探す。
  3. クラスターが形成された時期は「複数のフィボナッチ周期が同時にピークを迎える」ことを意味し、転換エネルギーが蓄積されている可能性が高い。

この手法は一目均衡表の「雲のねじれ(先行スパンAとBの交差)」に近い発想。異なる時間軸のサイクルが同時に転換点を迎える場面=相場変動が大きくなりやすい場面、という原理。

「価格×時間」のフィボナッチツール一覧:4つの位置づけ

フィボナッチには複数のツールがあり、それぞれ分析対象が異なる。混同しやすいので整理しておく。

ツール名 分析対象 描画 教えてくれること
リトレースメント 価格(縦軸) 水平線 押し目・戻りの深さ(どこまで)
エクステンション 価格(縦軸) 水平線 トレンド延長先の目標値(どこまで伸びるか)
タイムゾーン(タイムターゲット) 時間(横軸) 垂直線 転換が起きやすい時期(いつ)
ファン 価格+時間 斜めの線 トレンドライン的なサポレジ(どの角度で)

本記事のタイム・ターゲット(タイムゾーン)は3番目の「時間」に特化したツール。 リトレースメントと組み合わせることで「いつ+どこで」の2軸予測が可能になり、分析の精度が一段上がる。

フィボナッチ・タイム・ターゲットの実践フロー(5ステップ)

  1. 明確なスイングポイントを特定する。 「誰が見ても分かる高値・安値」を選ぶ。曖昧な山谷ではなく、週足や日足レベルの明確な転換点。ZigZagインジケーターを使うとスイングポイントの特定が機械的にできる。
  2. タイムゾーンを描画し、21日目以降の垂直線に注目する。 最初の5〜6本は密集しすぎるため無視。8本目(21日)以降が実用範囲。
  3. 垂直線の時期に接近したら、価格ベースの確認に入る。 RSIのダイバージェンス、ボリンジャーバンドのスクイーズ→ブレイクアウト、ローソク足の反転パターン。タイムゾーン単独で売買しない。
  4. リトレースメントの水平線と垂直線の「十字交差」を探す。 38.2%や61.8%の水平線と、タイムゾーンの垂直線が近い時期・近い価格で交差するポイントが最も高確率の転換候補。
  5. エントリー後の損切りは、通常のプライスアクションベースで設定する。 タイムゾーンは損切り水準を教えてくれない。損切りは直近スイングポイントの外側、またはリトレースメントの次の水準に置く。損切りの詳細は「損切りルールの作り方」を参照。

デモ環境で試してみよう。「FXデモトレード(無料・口座開設不要)」でスイングポイントにタイムゾーンを描画し、垂直線の時期に何が起きるかを数週間観察するところから始められる。

フィボナッチ・タイム・ターゲットの注意点

注意点①:起点の選定が結果を大きく左右する。 フィボナッチ・タイムゾーンの最大の弱点は「起点の選定が主観的」であること。同じチャートでも、起点を1日ずらすだけで垂直線の位置が全てずれる。対策は、「週足レベルの明確な高値・安値」から描画し、日足レベルの細かいスイングポイントには依存しないこと。また、複数の起点からタイムゾーンを描画し、クラスター(集中)が形成される時期にのみ注目するアプローチで、起点選定の主観性を薄められる。

注意点②:方向は絶対に教えてくれない。 垂直線は「いつ」だけ。「上がるか下がるか」はRSI、MACD、プライスアクションで必ず確認する。タイムゾーンの垂直線付近で、RSIに売られすぎシグナルが出ていれば買い方向、買われすぎが出ていれば売り方向、という組み合わせで初めて方向が決まる。

注意点③:「ゾーン」であって「ピンポイント」ではない。 フィボナッチ・タイム「ゾーン」の名前が示す通り、転換はピッタリ垂直線の日に起きるとは限らない。垂直線の前後±1〜2日(日足の場合)、前後±1〜2本(H4の場合)の「ゾーン」として捉える。特に長期のフィボナッチ数(89日、144日)になるほど、精度は「日単位」ではなく「週単位」になる。

注意点④:低い時間足では使いにくい。 フィボナッチ・タイムゾーンはH4〜週足で最も信頼性が高い。M15やM5では垂直線の間隔が極端に短くなり、ノイズに埋もれる。デイトレードで使う場合は、日足でタイムゾーンを引いて「注目すべき日」を特定し、H1以下でエントリータイミングを詰めるマルチタイムフレーム運用がよい。

注意点⑤:経済指標の発表がフィボナッチ周期を上書きする。 FOMC、雇用統計、CPI等の重要経済指標は、フィボナッチのサイクルに関係なく相場を動かす。垂直線が重要経済指標の発表日と重なった場合、テクニカルなサイクル転換なのかファンダメンタルの影響なのかの区別がつかない。経済カレンダーとの照合は必須。

注意点⑥:MT4では標準搭載されていない。 TradingViewでは「Fib Time Zone」として描画ツールに標準搭載。MT5でも「フィボナッチタイムゾーン」として利用可能。ただしMT4では標準搭載されておらず、カスタムインジケーターの導入が必要になる場合がある。MT4/MT5の環境については「MT4が使えるFX会社まとめ」も参考に。

よくある質問(FAQ)

Q. フィボナッチ・タイム・ターゲットとは何ですか?

フィボナッチ・タイム・ターゲット(フィボナッチ・タイムゾーン)は、チャート上に垂直線をフィボナッチ数列(1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144…)の間隔で描画し、将来の価格転換ポイントの「時期」を予測するテクニカル分析ツールです。価格水準ではなく時間軸に特化した分析手法です。

Q. フィボナッチ・タイムゾーンとフィボナッチ・リトレースメントの違いは?

リトレースメントは「どこまで(価格水準)」を予測するツールで、水平線をチャートに描画します。タイムゾーンは「いつ(時間)」を予測するツールで、垂直線をチャートに描画します。前者は価格ベース、後者は時間ベースであり、併用することで「いつ・どこで」の両方を予測できます。

Q. フィボナッチ・タイムゾーンの最初の数本は無視すべき?

はい。最初の5〜6本(1, 2, 3, 5, 8本目くらいまで)はフィボナッチ数列の特性上、間隔が非常に狭く密集してしまい実用的ではありません。8本目(21日)以降から間隔が開き始め、実用的なシグナルとして使えるようになります。

Q. フィボナッチ・タイムゾーンで転換方向は分かりますか?

いいえ。タイムゾーンは「いつ」転換しやすいかだけを示し、上昇か下降かの方向は教えてくれません。方向の判断にはRSI、MACD、ボリンジャーバンドなどの価格ベースのインジケーターやプライスアクションとの併用が必要です。

Q. TradingViewやMT5でフィボナッチ・タイムゾーンは使えますか?

はい。TradingViewでは描画ツールの「Fib Time Zone」として標準搭載されています。MT5でも「挿入→オブジェクト→フィボナッチ→フィボナッチタイムゾーン」で利用可能です。MT4では標準搭載されていないため、カスタムインジケーターの導入が必要になる場合があります。