トレンドを見るために移動平均線を表示し、モメンタムを確認するためにRSIを追加し、サポート・レジスタンスを確認するためにフィボナッチを引く――。
「1つのインジケーターで、これら全部を同時に見られたら?」
その答えが、一目均衡表(いちもくきんこうひょう / Ichimoku Kinko Hyo)だ。
日本人ジャーナリストの細田悟一(ペンネーム:一目山人)が1930年代に開発を始め、30年以上の検証を経て1969年に公開したこのインジケーターは、5本の線と1つの「雲」で、トレンドの方向・モメンタムの強弱・未来のサポレジ・過去との比較を一目で(”Ichimoku”=ひと目で)把握できる。
英語圏では “Ichimoku Cloud” として知られ、欧米のプロトレーダーの間でも「日本が生んだ最も完成度の高いテクニカルツール」として高い評価を受けている。MT4/MT5、TradingViewのいずれにも標準搭載されており、追加インストールは不要。
この記事では、5つの構成要素を1つずつ分解して解説し、最強のシグナル「三役好転/三役逆転」の読み方と実戦での使い方を解説する。
一目均衡表の5つの構成要素|まず「何が何をしているか」を理解する
一目均衡表を初めて表示すると、線が多すぎて混乱する。だが、5つの要素が「何を見ているか」を理解すれば、すべてが論理的に繋がる。
①転換線(てんかんせん / Tenkan-sen)
計算: 過去9期間の最高値と最安値の中間値。
(9期間の最高値 + 9期間の最安値) ÷ 2
役割: 短期のモメンタムと方向を示す。移動平均線の9期間SMAに近い機能だが、終値ではなく高値・安値の中間値を使う点が異なる。転換線が上向きなら短期的に上昇勢力が優勢、下向きなら下降勢力が優勢。
②基準線(きじゅんせん / Kijun-sen)
計算: 過去26期間の最高値と最安値の中間値。
(26期間の最高値 + 26期間の最安値) ÷ 2
役割: 中期のトレンド方向と均衡状態を示す。一目均衡表の「基準」となる線で、5要素の中で最も重要。基準線が水平なら相場は均衡状態(レンジ)、傾きがあればトレンドが発生している。また、基準線は動的なサポート/レジスタンスとして機能し、トレンド中の押し目/戻りの目安になる。
転換線×基準線のクロス: 転換線が基準線を上抜け→買いシグナル(好転)、下抜け→売りシグナル(逆転)。移動平均線のゴールデンクロス/デッドクロスと同じ概念だが、一目均衡表では雲との位置関係によってシグナルの強弱が3段階に分かれる(後述)。
③先行スパンA(せんこうスパンA / Senkou Span A)
計算: 転換線と基準線の中間値を、26期間先に描画する。
(転換線 + 基準線) ÷ 2 → 26期間先にプロット
役割: 「未来のサポレジ」の一辺を形成する。先行スパンAは転換線と基準線から派生するため、比較的「速く」動く。
④先行スパンB(せんこうスパンB / Senkou Span B)
計算: 過去52期間の最高値と最安値の中間値を、26期間先に描画する。
(52期間の最高値 + 52期間の最安値) ÷ 2 → 26期間先にプロット
役割: 「未来のサポレジ」のもう一辺を形成する。52期間分の値幅を使うため、先行スパンAよりも「遅く」動き、安定した水平線になりやすい。
雲(クモ / Kumo)
先行スパンAと先行スパンBの間の領域が「雲」だ。これが一目均衡表の最大の特徴。
雲の読み方:
価格が雲の上→上昇トレンド。 雲がサポート帯として機能する。
価格が雲の下→下降トレンド。 雲がレジスタンス帯として機能する。
価格が雲の中→方向感のないレンジ。 トレードを見送るか慎重に判断する。
雲の厚み: 厚い雲ほどサポート/レジスタンスが強い。薄い雲は突破されやすい。雲が薄くなったポイントは「雲のねじれ」と呼ばれ、トレンド転換が起きやすい場所。
雲の色(先行スパンAとBの上下関係): 先行スパンAが上→強気の雲(上昇トレンド中に形成)。先行スパンBが上→弱気の雲(下降トレンド中に形成)。雲の色が切り替わるポイントもトレンド転換のサインになる。
⑤遅行スパン(ちこうスパン / Chikou Span)
計算: 現在の終値を、26期間過去に描画する。
役割: 「今の価格は、26期間前と比べてどうか?」を視覚的に示す確認ツール。遅行スパンが26期間前の価格(ローソク足)より上にあれば、現在は26期間前より強い=上昇勢力が優勢。下にあれば下降勢力が優勢。
遅行スパンは一目均衡表の中で最も見落とされやすいが、三役好転/三役逆転の構成条件の1つであり、無視できない。
→ テクニカル分析全般の基礎は「FXチャート分析入門」で体系的に学べる。
MT4・TradingViewでの表示方法
MT4/MT5の場合: 上部メニューから「挿入」→「インディケータ」→「トレンド」→「Ichimoku Kinko Hyo」を選択。パラメーター設定画面で転換線期間(9)、基準線期間(26)、先行スパンB期間(52)を確認し「OK」。5つの線と雲がチャート上に表示される。
→ MT4を提供しているFX会社については「MT4が使えるFX会社ガイド」で紹介している。
TradingViewの場合: チャート上部の「インジケーター」をクリックし、「Ichimoku Cloud」と検索。TradingViewでは「Ichimoku Cloud」の名前で登録されている。
パラメーター(9-26-52)は変えるべきか? 結論から言えば、デフォルトのまま使うのが推奨。9-26-52は細田悟一が30年の検証の末に決定した数値であり、世界中のトレーダーが同じ設定で見ている。この「全員が同じ設定で見ている」こと自体が、雲や基準線がサポート・レジスタンスとして機能する根拠になっている。仮想通貨など24時間高ボラティリティの市場では5-15-30に変更する流派もあるが、FXでは9-26-52で十分に機能する。
三役好転・三役逆転|一目均衡表の「最強シグナル」
一目均衡表は多数のシグナルを生成するが、最も信頼性が高いのが三役好転(さんやくこうてん)と三役逆転(さんやくぎゃくてん)だ。
三役好転(強い買いシグナル)
以下の3つの条件がすべて揃った状態。
条件①:転換線が基準線を上抜け(好転)。 短期モメンタムが中期モメンタムを追い越した。
条件②:価格が雲を上抜け。 トレンド方向が上昇に転換した。
条件③:遅行スパンが26期間前の価格を上抜け。 現在の勢力が過去の勢力を上回った。
3つの条件は「モメンタムの好転(条件①)」「トレンドの好転(条件②)」「過去との比較の好転(条件③)」であり、異なる視点から同じ結論(上昇)に達している。だからこそ信頼性が高い。
三役逆転(強い売りシグナル)
三役好転の反対。
条件①:転換線が基準線を下抜け(逆転)。
条件②:価格が雲を下抜け。
条件③:遅行スパンが26期間前の価格を下抜け。
シグナルの強弱|雲との位置関係で3段階
転換線と基準線のクロスは、雲との位置関係で強弱が変わる。
強いシグナル: 買いクロスが雲の上で発生 / 売りクロスが雲の下で発生。トレンド方向に沿ったクロスであり、信頼性が最も高い。
中立のシグナル: クロスが雲の中で発生。方向感が定まらず、ダマシになりやすい。
弱いシグナル: 買いクロスが雲の下で発生 / 売りクロスが雲の上で発生。トレンドに逆行するクロスであり、信頼性が低い。
三役好転/三役逆転が成立するには、そもそもクロスが「強い」位置関係(条件②の雲抜けを伴う)で発生する必要があるため、自動的に最も信頼性の高いシグナルとなる。
実戦手法|一目均衡表を使ったFXトレードの流れ
三役好転/三役逆転は出現頻度が低い。日足で使う場合、年に数回しか発生しないこともある。そこで、三役が揃わない場面でも使える実践的なトレードフローを紹介する。
ステップ1(環境認識):雲と価格の位置関係を確認する。 まずチャートを開いて「価格が雲の上か下か中か」を確認する。上なら買い方向だけ検討、下なら売り方向だけ検討、中なら見送り。これだけでトレードの方向を絞り込める。
ステップ2(トレンド確認):基準線の傾きを見る。 基準線が上向きなら上昇トレンドが進行中。水平なら均衡状態(レンジの可能性)。基準線が水平の場合は、たとえ価格が雲の上にあっても慎重になる。
ステップ3(エントリー判断):転換線と基準線のクロスを待つ。 価格が雲の上にあり、基準線が上向きの状態で、転換線が基準線を上抜けたらエントリー候補。あるいは、基準線への押し目で買う(基準線はトレンド中の動的サポートとして機能する)。
ステップ4(確認):遅行スパンをチェックする。 エントリー候補が出たら、遅行スパンが26期間前のローソク足より上にあるか確認。上にあれば追い風、下にあれば慎重に。
ステップ5(損切り):雲の反対側に設定する。 買いポジションなら、雲の下端(先行スパンBまたはA、厚い方)の少し下に損切りを置く。雲を完全に下抜けたらトレンド自体が崩壊したと判断できる。
→ 損切りルールの詳細は「損切りルールの作り方」を参照。
→ 移動平均線との組み合わせは「移動平均線の見方と使い方」を参照。
一目均衡表の3つの注意点
注意点①:レンジ相場でのダマシ。 一目均衡表はトレンド追随型のツールであり、レンジ相場には弱い。価格が雲の中を行き来する局面では、転換線と基準線の交差が頻発しダマシが増える。雲が薄く水平に近づいたらレンジの可能性が高い。この状態ではシグナルを控えめに扱い、雲からの明確な上抜け/下抜けを待つ。
注意点②:線が多く視認性が低い。 5本の線と雲を同時に表示するとチャートが見づらくなる。初学者はまず雲と価格の位置関係だけに注目することを推奨。雲が読めるようになったら転換線×基準線のクロスを追加し、最後に遅行スパンを加える。一度にすべてを使おうとしない。
注意点③:低い時間足では精度が下がる。 一目均衡表は日足を前提に9-26-52の数値が設計されている。M5やM15では有効性が著しく低下するという意見が多い。M30〜H4で使う場合はデフォルト設定でも機能するが、日足が最も信頼性が高い。
→ RSIでモメンタムを補完する方法は「RSI・MACDの使い方」を参照。
よくある質問(FAQ)
Q. 一目均衡表の5つの線とは?
A. 転換線(9期間の中間値)、基準線(26期間の中間値)、先行スパンA(転換線と基準線の中間値を26期間先に描画)、先行スパンB(52期間の中間値を26期間先に描画)、遅行スパン(現在の終値を26期間過去に描画)。先行スパンAとBの間が雲(クモ)。
Q. 三役好転・三役逆転とは?
A. 一目均衡表の最強シグナル。三役好転は①転換線>基準線②価格>雲③遅行スパン>26期間前価格、の3条件がすべて揃った買いシグナル。三役逆転はその逆。3条件が同時に揃うことは稀で、出現時の信頼性は高い。
Q. パラメーター(9-26-52)は変えるべき?
A. FXではデフォルト推奨。30年の検証を経た数値で、世界中のトレーダーが同じ設定で見ていることがサポレジとして機能する根拠になる。まずはデフォルトで経験を積むのが先決。
Q. 一目均衡表が苦手な相場は?
A. レンジ相場。価格が雲の中を行き来する状態ではクロスのダマシが増える。雲が薄く水平なら見送り、雲からの明確な抜けを待つ。
Q. MT4・TradingViewに標準搭載?
A. はい。MT4/MT5では「挿入→インディケータ→トレンド→Ichimoku Kinko Hyo」、TradingViewでは「Ichimoku Cloud」で表示可能。ダウンロード不要。
まとめ|まず「雲と価格の位置関係」だけを見る習慣から
ステップ1:日足チャートに一目均衡表を表示し、雲だけに注目する。 いつも見ている通貨ペアの日足に一目均衡表を表示しよう。線が多くて混乱したら、まず「価格が雲の上か下か」だけを見る。上なら上昇トレンドの可能性が高く、下なら下降トレンドの可能性が高い。この判断だけで、無駄なトレード(トレンドに逆行するエントリー)を大幅に減らせる。
ステップ2:過去チャートで三役好転を5個見つける。 日足を1〜2年分遡り、転換線>基準線・価格>雲・遅行スパン>価格の3条件が揃った場面を探す。三役好転の後に価格がどう動いたかを5事例確認し、このシグナルの特徴を体感する。
ステップ3:デモトレードで「雲+基準線押し目買い」を実践する。 価格が雲の上にある状態で、基準線まで押した場面で買いエントリー。損切りは雲の下端の少し下。このシンプルなルールをデモ環境で20回実践しよう。→ FXデモトレード(無料・口座開設不要)
一目均衡表は「見た目の複雑さ」で敬遠されがちだが、やっていることは至ってシンプルだ。5本の線はすべて「高値と安値の中間値」であり、その中間値を現在・未来・過去の3つの時間軸に配置することで、相場の均衡(バランス)を可視化している。名前のとおり「一目で均衡を見る」ツールだ。
見た目に圧倒されず、まずは雲と価格の位置関係だけから始めよう。それだけで、チャートの見え方が変わる。