2020年1月20日頃から金融市場や実体経済への影響が本格化した新型コロナウイルス。
日本円やスイスフランはリスクオフに強い通貨としてこのような事態では買われるのがセオリーですが、この両通貨よりも米ドルの方が買われている傾向になります。
では今回は、なぜセオリー通りにならなかったのでしょうか。
「リスクオフ」の値動きが見られないUSDJPYとUSDCHF
米国のベンチャーキャピタル「セコイヤ・キャピタル」のレポートでは、今回の騒動は事前予測が難しくマーケットへの影響が大きい「ブラック・スワン」とも言われています。
こうしたマーケットへ負の材料が出た場合、FXの一般的な相場判断では、「リスクオフ」と考えてUSD(米ドル)・JPY(日本円)・CHF(スイスフラン)などの「逃避通貨」を買います。
USDJPY・USDCHFの通貨ペアという逃避通貨どうしのペアでは、通常のリスクオフ相場ではより安定していると言われているJPY・CHFが買われ、レートが下がるのが通常の値動きです。
しかし、当記事執筆時(2020年3月18日時点)までには、USDが買われUSDJPY・USDCHFで相場の上昇が見られています。
「リスクオフ」でもUSDが買われるのはなぜ?
今回の相場は、金融マーケットの混乱・実体経済の弱体化懸念と、明らかに「リスクオフ」となるべき状況です。
にもかかわらず、USDJPYやUSDCHFなどの通貨ペアで、「USDが買われている」のはなぜなのでしょうか?
追証やロスカットの増加
執筆時点での金融マーケットは、商品を問わずあらゆる金融商品で大幅な値下がりが見られ、レバレッジをかけたトレーダーは追加証拠金(追証)が求められる状態です。
レバレッジとは、投資家が口座に振り込んだ証拠金に応じて、各金融商品の取引会社で設定された倍率の金額で取引できる仕組みです。
例えば、証拠金5,000円、上限のレバレッジが25倍なら、12.5万円分のポジションを持てるということです。
このようなレバレッジという仕組みで取引をするトレードでは、証拠金が50%以下になった場合には追証の振り込みが求められ、30%以下になると強制的に決済されると言った仕組みがあります(追従や決済のタイミングはFX会社ごとに異なります)。
FXに限らず、株式投資の信用取引やコモディティ(金・原油など)なども、レバレッジを用いた取引が行われています。
追証の対策による資産の現金化
つまり、今回の新型コロナウイルスによる金融市場の過度な混乱による急激な資産価格の低下が始まると、多くの投資家が追加証拠金の振り込みを求められます。
それに対応するため、米ドル建てで取引されている含み益のある商品を現金化したり、追証のためのUSDを確保しようとします。
こうした背景によって、リスクオフ相場の中では通常USDが売られる通貨ペアでも、USDが買われるという、通常とは異なる値動きになります。
実際の為替やその他金融商品の値動きを見てみよう
では、実際の為替の値動きを見てみましょう。
ここでは、通常の「リスクオフ」のような値動きを見せているEURUSD(ユーロ米ドル)と、「リスクオフ」相場とは異なる値動きになっているUSDJPY・USDCHFの値動きを確認します。
EURUSD・ダウ平均・S&P500の値動き
まずは、EURUSDの値動きです。
チャートを見ると、矢印で示した3月9日以前は市場の予測を下回る米国経済指標や、FRBによる利下げ予測の影響で、強力な「USD売り」相場となりレートが上昇していました。
しかし、3月9日にダウ平均の節目となる2019年5月の安値25,018ドルを下回り、S&P500では2019年10月の2,919ドルを下回りました。
その結果、「追証」を求められる投資家が急増し、EURUSDでは強力な「USD買い」相場となったと考えられます。
しかし、このEURUSDの値動きのみでは、通常のリスクオフの値動きと考えることも出来るので、USD以外の逃避通貨との通貨ペアの値動きを見る必要があります。
USDJPYの値動き
USDJPYの値動きは下記の通りです。
先述の通り、3月9日以前は米国の経済指標が悪化したことからリスクオフ相場となり、JPYが買われる相場展開でした。
しかし、3月9日の株式指数の安値目安を下回ったタイミングからドル需要が増加。トレンドが反転し、強力な「USD買い」トレンドとなったと考えられます。
USDCHFの値動き
USDCHFの値動きは以下の通りです。
こちらでも、3月9日前後で明確に相場のトレンドが転換していることが分かります。
この様に、EURUSDの値動きのみでは単純な「リスクオフ」とも考えられた為替の値動きが、「USD買い」相場であることが分かりました。
まとめ
今回は新型コロナウイルスの影響による金融マーケットの混乱に伴う、為替相場の特殊な値動きについて紹介しました。
FXでは、テクニカル分析も大切ですが、値動きの裏には必ず「原因」があります。その原因がテクニカルな節目の価格水準が原因となることもありますし、今回紹介したように、特定通貨への需要増加も原因になることもあります。
FXトレードをする時には、「何が原因で相場が動いているのか?」を理解してからエントリーするように心がけましょう。
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